「勝負、明暗、功罪」、それぞれの分水嶺で見極めに誤りは無かったのか?
〜LUDWIGの言いたい放題「日本製紙クレインズ 2003〜2004シーズン」総括〜
【まえがき】
この文章は封印しようと思ってました。
ですが、本日クロージングフェスタに行ったことで、私の気持ちは変わりました。やはり勝負事は勝たねば意味がない。負けていてはいつまでたっても称えられないから。
【終わりはあっけなく】
2004年2月29日午後4時16分(この一本調子の出だし、何とかならんか)。栃木県立日光霧降アイスアリーナで行われていた日光アイスバックス対日本製紙クレインズの試合が終了し、第38回日本リーグの「全ての試合」が終了した。と、同時に昨年の10月4日から始まった主要大会の全日程を終えたことになる。本来ならば、3月2日から毎年恒例の「プレーオフ」なるものが行われるはずだったが、同日1時間前に新横浜で行われたコクド対王子の最終戦が約1時間前に終了し、コクドが王子を破ったためにコクドが後期1位となった。既にコクドは前期1位にもなっており、今大会の規定により「前後期同一チームが優勝した場合にはプレーオフ無しで当該チームの優勝」となるからだ。コクドが優勝を決め歓喜の渦になっていたと思われる同じ時刻に、日光では日本リーグ後期初勝利を目指す日光アイスバックスが1点のビハインドを跳ね返そうと懸命にパックを追っていた頃だった。そして、その試合の相手だったのは日本製紙クレインズ。この試合に勝っても負けても既に3位というポジションは揺るがない状況で、しかも、地元日光での最終戦とあって2000人(あくまで公式発表であり、それ以上は居たはず)の声援がバックスに向けられていた超アウェイという環境で1点のリードをただ単に守っていた。冷静に考えると残念ながら両チームの力差は明らかだった。しかし、バックスの、いや霧降の「迫力」に終始押されながらも、要所要所で力の差を見せつけ辛うじて勝利した。1試合を通じて個々人がそしてチームが本来持っているはずのパフォーマンスを発揮したならば、もっとが差ついていたはずだ。しかし、結果は前日のバックスとの試合も含め、クレインズの辛勝という感は拭いきれない。
第33回リーグで初めてプレーオフに進出したクレインズの日本リーグ最終試合(過去5年はいずいれもファイナルまでは行っていないが)を全て見てきた私にとって、既に今季のプレーオフ進出が無くなったことにより、今、自分が目の前で見ている試合が、やはり「最終試合」になっていることにハタと気がついた。6年連続で見るクレインズの最終試合。しかし、過去5年のそれと比べると重みが感じられない、いや感じ取ることができない、汲み取ってあげられない自分自身の気持ちの狭さを情けなく思う。クレインズファンだと言い続けてきた自分が最後の試合でそんな気持ちであって良いのか?。そうなる前に何かできることは無かったのか?。プレーオフの出場を期待するならば、大事な2月21、22日の釧路での対コクド戦を観に行かず、しかも「果報は寝て待て」という態度を取ったことが果たして正解だったのか?。では、観に行ったら結果は変わっていたかと言われれば、そうとも言えない。しかし...、目の前で見ている試合が結果的に最終試合になっていることを素直に受け止めて良いのだろうか?。本当に自分自身の判断に誤りは無かったのか?...。
【合併】
昨シーズン終盤に発表された西武鉄道の廃部、そしてコクドとの合併。この結論を下した「巨大な力を持つ人」へもう一度考えてもらいたい。企業の最高責任者は利益最優先で企業を運営せねばならない。それは当然だが、自分で1を2にしておきながら、今になって2から1に戻すというのは全く持って理解不能。チーム数が1つ減ると何が起きるか知らないとは言わせない。しかし、「声」や「その後に起こる事態」を無視するかのように、「企業の論理」を平然と押し切った。今季は形の上で1つにはなったが、試合に出られる選手は当然のことながら限られる。昨シーズン1位と2位のチームが1つになれば、両チームでトップを張っていたメンバーを並べりゃとてつもない戦力となることは目に見えているし、結果的にそうなったのも事実だが、その裏で試合に出られない選手を半分近く抱えているというのも意味が無い。今季は身元保証はするが、来季は必要のない選手は切ってしまえば固定費(経費)削減になる。合併の最終目的はそこにある。間違いない。出たくても出られない選手が既に溢れている。これから上を目指し大好きなアイスホッケーを続けている大学生、高校生の受け皿が減っていくことで、日本全体のアイスホッケーのレベルが落ちていくことを良しと思っているのだろうか?。そんな状況で「世界選手権で1勝を」という目標は本当に最優先課題なのか?。月9ドラマの影響で1月中旬以降、リンクに人が集まるようにはなったが、それは「単なる神風」であることを理解しているのか?。日本のアイスホッケーそのものが本当に魅力あるものになっていると感じている人間なんぞ一人も居ないと心の中では思っているのではないか?。チーム数が少ない→試合数が少ない→対戦カードにヴァリエーションが無い→同じカードを何度見ても新鮮さは無い→日本リーグはつまらねぇ→アイスホッケーって(ビジネスにとっても)つまらない、って事を関係者は解っているはず。このまま3月に試合の無い状況を作ったままで「神風」が来季まで続くと本気で思っているのか?。決断するのは「今」しかないはずだ。
【コクドの完全優勝】
結局、2年連続コクドが全日本と日本リーグを制覇してしまった。ただ、昨年はいざ知らず、今季は「結果的に大規模な補強」に成功したことで、1つ目から3つ目のFWまで点の取れるプレイヤーがずらりと並び、DFも同様に年間通して安定した力を発揮できるプレイヤーを西武、コクドから「寄せ集めた」結果、日本リーグでは前期後期共に王子と終盤まで優勝争いを演じつつも、実態は圧倒的な戦力を見せつけた格好で王子を蹴落とし優勝した。全日本選手権でも13年ぶりに決勝に進出した日本製紙クレインズに対して力の差を見せつけ、ほぼ完勝と言っても過言ではない強さで優勝した。日本リーグに関しては、王子が最終2連戦でコクドとの直接対決を前に勝ち点1リードしておきながら、コクドが2連勝し逆転した。プレーオフが無くなってしまったことは、緊張感のある白熱した試合を見れないと嘆くファンも居るとは思う。しかし、アジアリーグで4位、全日本でも4位と、まるで日本リーグだけに照準を絞ったチームにプレーオフを戦って欲しくないと思うのは私だけではないはずだ。今季は素直にコクドの強さを認めるべきだと思う。
【クレインズはそれで良かったのか】
そして話はようやくクレインズに戻ることになる。
コクドと西武の合併がもたらした結果、大部分の選手、特につい最近までコクド、西武の屋台骨を支えたプレイヤーがチームを離れる結果となった。そこに目をつけたのがクレインズだった。昨年まで5年間クレインズのゴールを守り続けたロブ・ドプソンに代わる即戦力GKが必要だった。そして、強大となったコクドの戦力に対抗するための補強が無ければ、今まで誰しもが経験したことのない領域(優勝)に踏み込むことはできないという判断から、FW、DFも補強する必要があった。その判断はあながち間違いではないと思う。しかし、それは「賭け」でもある。5年間にわたり優勝を争えるところまでチームを育てた澤崎潤一前監督が時を同じくして退任。コーチだった田中俊司氏が新監督となった。監督の交代、そして新戦力の加入により日本製紙クレインズというチームは今までとは全く違うチームに生まれ変わらねばならない。「優勝争いできるチームから優勝するチームへ」。変革こそ成功の第一歩である。「5年間で築いてきたチーム力と新戦力の融合」が王者コクドを脅かすだけでなく、その天下をひっくり返すことが必要だったのだ。
GKに昨シーズン後半からプレーオフにかけてクレインズを大いに苦しめたMVP男・二瓶次郎を加入させ、ロブ・ドプソンが抜けたGKの穴を埋めた。DFにはコクドで優勝経験がありその時の主将も勤めていたベテランの中島谷友二朗が加入。若手が多いクレインズのDF陣の引き締めを狙う。FWには一昨年までコクドに居た桑原ライアン春男を獲得。竹内−ミタニ−伊藤雅俊の「勝負を決めることができるセット」を更に増やし攻撃陣に厚みを増すことが狙い。同様に、スピードと高いスキルを武器に変幻自在の攻めを見せていた、ユール、八幡(後期から王子に加入)とラインを組んでいた二瓶太郎を獲得。脚のある山野、佐藤匡史、佐藤博史との組み合わせで攻撃のヴァリーエーションを増やすことが狙い。更に、西武鉄道で小兵ながら外国人、日系人を引っ張ったキャプテンシーを持っているこちらもMVP獲得経験者の樺山義一を獲得。既に38歳となっているが長野五輪経験者でもあり、数々の修羅場をくぐってきた経験を、「ここ一番」という場面を乗り越えられなかったクレインズに「エキス」として注入する意味で重要な役割を担っていたはず。
一気の大量5人のしかも主力級のプレイヤーを獲得したのだ。確かに優勝するためには西武と合体し間違いなく戦力がアップしているコクドに対抗できない、という判断からだと思う。何度も言うようだが、この移籍は間違いではない。しかし、「優勝争いできるチームから優勝するチーム」になるためには、有力選手を入れるだけでは駄目。「5年間で築いてきたチーム力と新戦力の融合」が必要なのだ。単に凄い外国人を連れてきても優勝はおろか上位にすら食い込めなかった「悪しき経験」があったはず。「助っ人頼り」では駄目なのだ。今までの良い所(日本人選手の底上げ)を殺さず、新戦力を加えてチーム力をアップさせるためのチーム作りが今の時代には求められている。私が心配していた点はここにあった。ここがうまく機能して行けば、優勝は間違いなく手が届く。しかし、失敗すると今までと変わらない、いや、それ以下の結果に終わる可能性もあるからだ。
前哨戦のSTVカップ。王子、コクドとの総当たり戦で優勝を決める形ではあったが、主力級を温存したコクドに辛勝し、昨年の戦力に西武から移籍した芋生ダスティーを加えた殆ど変わらない王子に完敗。その時点で早くも私が心配していた事態が起きていた。新しいセットは確かに魅力的だった。しかし、一昨年、新人賞を獲ったクレインズの若きポイントゲッター伊藤雅俊の影の薄さが気がかりだった桑原を伊藤雅俊のところに入れ攻撃力がアップした71−20−32という新しいセットは確かに目立っていたが、2つ目に8−19−10という快足を揃えたセットも個々のスピードはあるものの、ラインの総合力という意味ではまだ破壊力に乏しい状態だったと思う。そして、伊藤雅俊は3つ目18−47−14に位置していた。本来ならば点取り屋と快足ウィングにゲームメイクできるセンターが組ませ「恐怖の3つ目」に仕立てる目論見があったと推測する。しかし、このセットも2つ目同様機能していなかった。私は「かみ合っていない」という不安を感じつつ、釧路で行われた王子、コクドとの9月下旬のプレマッチ3連戦を3連勝していたクレインズの試合を見ることなく、10月4日の開幕戦を迎えてしまった。
開幕初戦は敵地霧降でのバックス2連戦。今季もチームの存続問題が尾を引いたバックス。チームの得点源だったコフマン、守護神春名、キャプテン高橋朋成ら大量の選手が離脱。西武から日光出身の上野秀幸、小野豊を加入させ、1年のブランクがあった元ポラリスの橋本三千雄を急遽加入させ、辛うじて「数」を揃えたという印象は否めなかった。普通に考えれば戦力を揃えたクレインズに負ける要素は見当たらない。現に1ピリで2−0と早々にリードを奪い楽勝ムードが漂った。しかし、2ピリ以降はバックスの反撃になすすべ無し。5年間で整備されたはずのクレインズの守りが崩れていく。気がつくと同点に追いつかれオーバータイムに持ち込まれていた。最後はバックスの反則に助けられオーバータイムで大澤がPPGを叩き込み勝利をもぎ取ったが...。
「クレインズっていつからこんなにパックをこねくり回すチームになったっけ?」というのが私の印象。パワープレーでは昨年まで見せていたシュート&リバウンドが影を潜め、パスとによる「華麗な」連携で相手の守備隊形を崩そうとするプレーになっている。それよりももっと重要なこと、全体的にプレーのスピードが遅いこと。これは致命的ではないのか、と。私は過去4年に渡ってシーズンオフになると、スカイAの録画映像を元に「クレインズ全ゴール集」を作っている。ゴールシーンばかり集めた映像に写るクレインズと新戦力が加わったクレインズはまるで違う似ても似つかない姿になっていた。いや、それで結果が出るなら文句も言えないが、その後の苦戦は言うまでも無い。チーム数が少ない中、前後期制でどっちか優勝しなければプレーオフに進めないという「12試合の短期決戦」。1試合当たりの勝敗ウエイトが高いのだ。1つの負け、1つのプレーが、「大きな目標から遠ざかってしまう」ことになるのだ。結局、王子には1つも勝てず4連敗、コクドにもPS勝ちの1勝のみで3敗。バックスにも地元でPS負けを喫するなど最後まで挽回の糸口さえもつかめないまま4勝8敗の3位に甘んじた。今だから言うが、バックスとの開幕戦を見ただけでこの結果はある程度予想はできていた。少なくても優勝は無理だなとは思ったが、ここまで負けがこんだのも予想外だった。長期的視野を考えた首脳陣のセット構成は実を結ばず、目先の結果を優先する余り、日々セットを組み替える苦悩の日々。今のままではとてもじゃないが「優勝」なんかできないとチームは体感していたはず。日本リーグに突入するまでに本当にチームとしてやるべきことをやり尽くしていたか?。選手個々の目的意識が微妙にずれていたのではないか?。チームとしてのコミュニケーションは充分に取れていたのか?。そして、お互いが「アイツがやるからオレはテキトーでいいだろう」ってもたれ合ってなかったか?。
【奇跡?のビッグタイトル獲得】
11月の時点で、誰がこの結果を予想しただろうか?。
というのが、偽らざる私個人の心境である。
屈辱とも言える日本リーグ前期を終えたわずか1週間後に韓国実業団チーム・ハルラウィニアを交えた「アジアリーグアイスホッケー2003〜2004」が開幕してしまったのだ。アジアリーグに関しては、こちらに終了直後のコラムを既に記載してあるのでここでは詳細は述べないが、今、日本リーグが全て終わった時点で改めてアジアリーグを振り返ってみると、後期、そして全日本で何故勝てなかったのか、という答えが転がっていたように思える今日この頃だ。
アジアリーグ最初の相手は敵地苫小牧での王子2連戦。ほんの2週間前にやはり敵地苫小牧で接戦をことごとくものにできず連敗していただけに、6−4、4−3と連勝で王子を撃破したことにまず驚いてしまった。1週間でチームが急に変わるのか?。「ひとまず前期はだめだったから、気持ちを改めて一から出直そう」という「清らかな」気持ちがチーム全体に行き渡っていたとしたら...。試合に挑む気持ちを即座に変えることができたことがアジアリーグ制覇の勝因なのか?。日本リーグでは苦汁を飲まされた王子に全勝し、優勝の最有力候補であるコクドにも2勝2敗のタイで乗り切った。終盤、ハルラウィニアに足元を掬われ自力優勝が消滅し、コクドに優勝の芽を献上するという「弱さ」を見せたものの、リーグ最終日前日に今度はコクドがハルラウィニアに足元を掬われ、再びクレインズに優勝の芽が返ってきた。最後の2連戦の相手がバックスだったこともクレインズにとっては好結果につながったのかも知れない。
結果は既にご存知の通り。敵地霧降でバックスに連勝し自力で優勝をもぎ取った。
クレインズは5チーム最高の80ゴールをマークした。その1/4は移籍組みの桑原ライアン春男、樺山義一、山野由宇の2つ目がマークし、ダーシ中心の1つ目、樺山中心の2つ目、そして前期では結果を出せなかった佐藤博史中心の3つ目、石黒史郎中心の4つ目がきちんと固定され、各人が「勝つために何をすべきか」を自覚した結果だということ。1試合平均3失点という失点の多さは気になるものの、それを上回る得点力がアジアリーグを制した勝因であり、その原動力は移籍組みの活躍もさることながら、本来頑張らねばならない生え抜きの選手が結果を出したからに他ならない(石黒史郎、佐藤匡史、飯塚洋生、佐藤博史が16試合で10ポイント以上をマーク)。
そう、日本リーグ後期を制する答えはここに出ていた。前期で全敗した王子に全勝したからだ。その上でコクドとタイの成績以上で乗り切れば優勝できる星勘定になる訳であり、あとはそいつを実践できるか、という問題だけだった。「アジアリーグ優勝」はあくまで「全日本選手権、日本リーグ制覇」の通過点に過ぎなかった。
【アジアリーグ優勝を無駄にしたチームとしての気の緩み】
オールスターゲームを挟み、日本リーグ後期が1月25日からスタート。途中に全日本選手権が挟まる格好で、2月29日までに全日程を終了させる過密日程に突入した。アジアリーグを制したものの、中島谷が怪我で早々に戦線離脱しており、前期は試合に出ていた伊藤賢吾もECHLに行ってしまう。DF強化のためにクレインズは優勝に向けたラストカードを切った。コリー・フォスターの獲得である。残っていた外国人枠をここで使ってきたのだ。心強い助っ人加入と思いきや、それ以上の問題がチームに降りかかった。再開直前の日光でのオールスターゲームを境にクレインズにインフルエンザが蔓延するというとんでもない事態だ。大事な大事な後期初戦の対王子戦(@神戸)に二瓶次郎が欠場。ここ3年、勝ち星の無い大滝にゴールを託す。対する王子は日本リーグ制覇に照準を絞った戦い方と言われても仕方のないアジアリーグでの負けっぷりはやはり虚像に過ぎなかった。案の定、1点を争う接戦となるもクレインズ1点リードで迎えた3ピリに王子は同点に追いつき延長戦へ。王子に勝たねば日本リーグ制覇は無い。最終的に山野のゴールで延長勝ちを納め勝ち点2はゲットしたものの、勝ち点1を王子に与えてしまった「甘さ」。1日置いて再び対王子(@名古屋)。相手に勝ち点1を与えているため、ここは絶対に落とせない試合だったが、大滝の攻守も空しく4−8と大敗する。1勝1敗だが勝ち点1のビハインドを背負ってしまう。しかもこの2連戦で王子からクレインズの倍以上のシュートを浴びせられた点が気がかりだった。そして、2日置いて東伏見でのコクドとの直接対決2連戦。二瓶次郎がここから復帰する。絶対に負けられないクレインズ。立ち上がりに先制するもすぐに追いつかれ、突き放すも追いつかれ、1ピリ終盤に失点しリードを許すと、以降はコクドの分厚い攻めになすすべ無し。2−5となり勝負は決したかに思われた17分、山野が決めて2点差。そして決死の6人攻撃で佐藤博史がねじ込み1点差にし見せ場を作るも痛い60分負け。終盤に反撃できるなら何故それを最初からやらないのか?。翌日、連敗すれば致命的となる大事な試合。それはみんなが理解していた。1ピリを1−2とリードされるも2ピリに逆転し、この2連戦で初のリードを奪う。しかし、その20秒後に同点に追いつかれる始末。短時間での連続失点&得点後の失点。後期のクレインズが最後まで改善できなかった悪いところが出てしまった。結局、3ピリのしかも14分、15分に連続失点で3−5。もはやこれまでと思われた18分。PPに乗じて昨日に続き6人攻撃。ここで伊藤雅俊が魅せた。次郎がベンチに上がった直後にゴールへ一直線そしてワンタッチゴールで1点差。その20秒後に6人攻撃から今度はラップアラウンドで同点に追いついた。そしてオーバータイムでディックがブチ込み逆転勝ち。辛うじて優勝争いに首の皮一枚残した貴重な勝利でコクド、王子にくらいつく。ただ、冷静に考えてみると、勝ち方は派手だが、実入りは少なかった王子、コクドとの2連戦。相手に勝ち点1を与えて後手に回る。地元に戻ったバックス2連戦でも失点の多い危うい試合ながらも連勝し勝ち点1差の3位で全日本選手権ブレイクに入った。気になるのは、「ムラとムダの多い試合」だということ。後期に入って失点が3、8、5、5、5、1と1試合当たりの平均失点が4.5点とアジアリーグよりも悪化してしまったこと。インフルエンザの蔓延によりチーム状態が悪くなったというが、もしそいつを理由にするなら、チームの健康管理面にぬかりは無かったのか?。過密日程になることは既にわかっていたことだろうに。本当に「インフルエンザが無かったら」と後悔するくらいなら、チームそのもののあり方にもメスを入れねばならない。もし、これがアジアリーグを制したために起きた「気の緩み」だったとしたら...。もはや戦う以前に負けていることになる。
【タイトルを賭けた直接対決】
後期リーグの前半6試合を終えた翌週、今度は第71回全日本選手権が札幌で開催。改装(というか老朽化対応工事)を終えた月寒体育館で行われた。今回は「真の日本一を決まる」と銘打たれていた。昨年よりも更に参加チームを増やし、大学、高校、社会人チームを交えた16チームのトーナメント形式。注目は札幌選手権、全日本選手権北海道ブロック予選を勝ち上がってきた「札幌イーガービーバーズ」。往年の名選手、若林修、中村等がタッグを組み、雪印、札幌ポラリス、日光アイスバックスで活躍した元日本リーガーに外国人選手を加え戦力を整え、来季の日本リーグ参戦を睨んだ「挑戦」だった。一方、日本リーグ在籍4チームはシードされ3回戦からの出場。詳細は記載しないが、コクド−釧路厚生社(昨年参加)、日光アイスバックス−札幌イーガービーバーズ、王子製紙−明治大学(インカレ優勝)、そしてクレインズ−法政大学(インカレ準優勝)の組み合わせとなった。日本リーグのチームと対戦する4チームはこの時点で3連戦、或いは2連戦となり体力的に厳しい面もあったが、日本リーグ4チームは翌日に控える準決勝を睨んで極力体力を温存したいという気持ちと、後期が終わって約1週間ぶりの実戦という影響もあり、お世辞にも日本のトップで戦っているチームとは思えない試合だったという。特にコクド−釧路厚生社は厚生社のGK石原の頑張りで2ピリまで1−1と食い下がるも3ピリに突き放され1−3で敗退。王子−明治に至っては明治が一時はリードを奪う展開となり王子を慌てさせた。最終的には王子が5−3で突き放したが、明治の頑張りばかりが目立った試合だったという。そして、バックス−イーガービーバーズは3回戦屈指の好カードと期待されたが、レベルの高い試合の経験が少ないのと、そこからくるスタミナ不足からバックスが7−2で圧勝し面目を保った。イーガービーバーズの日本リーグ参戦に向けた絶好のアピールの場だったが、思わぬ大差負けで、進んでいる話が頓挫しないことを祈りたい。
そして、3回戦の最後に登場したクレインズは法政を8−1で退けた、が、1ピリ中盤にキルプレーで一時は同点に追いつかれるなど精細を欠いていた。最終的には力の差を充分に見せつけた格好にはなったが、この試合で桑原がボード際でチェックに行った際に転倒し脚からフェンスに激突、負傷してしまう。今思えば、この負傷が全日本の、そして後期の残り6試合を「つまらない」ものにしてしまったかも知れない。アジアリーグ得点王が居ると居ないとでは相手に与える印象がまるで違うからだ。当然、アジアリーグ中盤からようやく固まってきたセットにも手を入れなければならずリスクは大きい。確かに法政相手にフルメンバーで臨んでくれたことは日本リーグのチームとして「力をきちんと見せつける」という役目を果たす意味で間違いでは無いが、脚を負傷したと思われる場面を見ていた私に言わせると、既に勝負が決まっていた3ピリであのチェックは本当に必要だったかと首をひねりたくなる。不可抗力というよりも、気の緩みがあったのではないか?。
大方の予想通り準決勝はコクド−バックス、王子−クレインズとなった。第1試合は先制されたバックスが2ピリに一旦は逆転するも、コクドの「力」の前にあっさり同点、逆転を許し突き放され5−2でコクドが決勝に駒を進める。
第2試合、クレインズは前日負傷した桑原を欠く苦しい布陣。終始王子がパックを支配しクレインズを手数で圧倒。1ピリはシュート数15−5。2ピリに入っても王子の勢いは止まらず先制を許す苦しい展開。それでも終盤に訪れたPPのチャンスを生かし同点、終了間際に逆転しペースを握るかに思えた。しかし、ここがクレインズの「甘さ」なのか3ピリ立ち上がりに同点に追いつかれると試合は膠着。このまま延長かと思わせた11分にまたもやPPのチャンスが転がり込むとフォスターの強烈なシュートで勝ち越す。終盤、王子の6人攻撃に防戦一方のクレインズだったが辛うじて逃げ切り3−2で決勝進出を決めた。しかし、トータルシュート数は42−22。試合全般を通じて王子に完全に圧倒されていた感は否めない。ただ、要所で王子が犯した反則を生かしたクレインズが少ないチャンスを確実にモノにし守り勝った。
13年ぶりに決勝進出となったクレインズ、前回の決勝進出時の主力メンバーは、GK山本、DF芳賀、角橋徹、佐古、川口(現レフェリー)、FWに中村達、瀬戸、角橋範、重野賢(解説でお馴染みの)、澤崎(前監督:澤崎潤一氏の実弟)、そして当時新人の竹内。当時を知るメンバーはもはや竹内だけとなってしまった。しかし、その決勝も含めクレインズは全日本でコクドに勝てないままだった。特に最近は準決勝でコクドと当たり、ことごとく敗れ去っている。だが、今回は違う。コクドとは対戦成績がタイだったものの、アジアリーグを制したのだ。アジア、全日本、日本リーグの3冠のうち1つを獲っている。対等とまでは行かないが、同じ土俵で戦えるチームになった、はず、と思っていたのは私だけだったようだ。
桑原がケガを押しての緊急参戦。形の上ではアジアリーグと変わらないメンバーで臨んだ決勝戦だったが、1ピリPPで早々に失点、イーブンで失点と2点のビハインドを背負う苦しい展開。2ピリに一瞬のコクドのミスと5on3のPPを利して同点に追いつくも、勝負の3ピリではコクドの強さばかりが目立つ展開に。「ここ一番」という大事な試合だからこそ、PPでのクレインズの勝ち越しゴールを奇跡的な守りでゴールラインを割らせないGK福藤のプレーがそれを象徴していた。結局、ペースを握れないまま勝ち越され、マッチアップのうまさで突き放され2−4。特に、コクドの1つ目75−33−18と対峙するクレインズの1つ目18−20−32が完全に圧倒されてしまった。2つ目も桑原の動きに精細を欠きチャンスが作れない。シュートを打たねば点は入らないが、特に今季はなかなかシュートを打たないプレーが目立っているだけに、コクドに試合を作られてしまうと、シュートはおろかシュートに行く前に早い潰しと鉄壁のDFに阻まれる。フィジカル面でも劣勢が続き、1対1の競り合いにも勝てず。いつしか時間は残り2分。六人攻撃で「奇跡」を狙うも、既に「川の流れ」は決まっていた。点を取るためには何が必要か、パックを自分の支配下に置くことだ。勝つためには相手よりも多く点を取らねばならない。ということは、相手よりもパック支配率で上回らないとなければならない。そのためには、パックを巡る1対1の攻防では負けてはならないのだ。そういった基本的な部分での改善が見られないまま6人攻撃を敢行しても結果は見えている。
【奇跡とは最善を尽くしたときに生まれる】
全日本選手権は「やはり」コクドが制した。
試合を重ねる毎に強さを増してきたコクド。そりゃそうだ。元々西武、コクドの中心プレイヤーを寄せ集めたのだから、いずれそうなるであろうことは予測できた。だが、コクドほどではないにせよ(全盛期を過ぎているかも知れないが)クレインズだって過去に例を見ない大型補強を行ったのだ。しかし、全日本では結果が出なかった。残すは日本リーグ後期の後半戦6試合。それも立ち上がりの王子(@帯広)、コクド2連戦(@釧路)、王子(@福岡)の上位4連戦を全勝すれば自力優勝が掴めるのだ。最悪でも負け試合で勝ち点1を奪った上での1勝1敗までがデッドラインだった。それは誰しもが理解していたはず。
大事な初戦は全日本決勝戦の3日後。全日本で押されながらも勝利した自信か2ピリ途中で3−0とリード。さすがにクレインズも「事の重大さに気づいたか」と思った矢先、試合は一転して点の取り合い。3ピリ終盤に5−3となる。しかし17分に1点返され5−4。そして六人攻撃を凌げず19分に5−5。しかも延長戦残り40秒で決勝点を奪われまさかの逆転負け。勝ち点1は拾ったが、本来なら勝ち点2をゲットし、王子が勝ち点0だから、差が2つ縮まってこの試合で王子とクレインズは順位が逆転するはずだったのに、負けたことで勝ち点差がまた1つ開いてしまった。
2日後の地元でのコクド2連戦は絶対に負けられない。負けられないはずなのに初戦を落としてしまい、後期自力優勝がなくなるどころか、星勘定でも優勝の可能性は限りなくミクロになった。翌日、60分で同点だった時点で「終戦」である。しかし、常に先行される苦しい展開に最後までリードを奪えない。結局2点差を埋められないまま3ピリ16分。しかし、クレインズは意地を見せた二瓶太郎のゴールで1点差に追いすがると、直後に伊藤雅俊がゴール前にパックを山なりで放り込んだところイレギュラーバウンド。ラッキーな同点ゴールとなる。60分で勝てば...。しかし無常にもタイムアップ。この時点でクレインズの日本リーグ制覇は今季も「夢」と消えた。試合は延長戦でも決着つかず、GWS戦も双方5人が全て失敗、サドンデスでユールに決められたものの竹内が決め返し、最後は山野が決着をつけ試合には勝った。しかし、優勝の可能性は消えていた。確かに2戦目を勝ったことは「奇跡」かもしれないが、既に2敗している状況では「奇跡を起こした」のではなく「軌跡を残した」だけに過ぎない。肝心な試合で勝つためにクレインズは最善を尽くしてきたか?。技術、戦術云々よりも「勝ってやるという強い気持ち」をシーズン通して維持してきたのか?。過密日程に対する「メンタル面の鍛錬」はしてきたのか?。
【一から出直し】
アジアリーグ:13勝3敗 80得点49失点
GK二瓶次郎のブロック率89.21 平均失点3.00(16試合フルマスク)
日本リーグ通算:11勝13敗 91得点87失点
GK二瓶次郎のブロック率89.39 平均失点3.19
(前期)ブロック率90.12 平均失点2.72(12試合フルマスク)
(後期)ブロック率88.66 平均失点3.75(10試合)
昨シーズンMVPを獲ったゴーリーにとっては「屈辱的」な数字とも言える。特に後期がひどい。この数字の改善にまず取り組まねばなるまい。「次郎任せ」の守りの意識を変えること。得点が多くて失点が多い、って20年前の十條製紙だよ。せっかく5年で築いた守りがわずか1年で崩壊したのだから。勿論、このままで終わるとは思えない。クレインズは生まれ変わろうとしている最中なのだ。変わるには「痛み」が伴う。アジアリーグ初代王者になったという「成果」と日本リーグBクラスという「屈辱」。実りが決してなかったわけではない。しかし、「痛み」は今シーズンだけで結構。来季こそ「真の新生クレインズ」が誕生することを願ってやまない。できることなら同じ顔ぶれで来季も「挑戦」してほしい。コクドを破るのは「クレインズ」だということを...。そして、変わるのは「今」だということを...。
−了−